プロジェクト・アルバレス
やがて空は赤らみ、夜が近づいてくる。
クラス対抗戦前の連休を全て費やすつもりで臨んだ旅だったけど、一日で終わってしまったな。嬉しい誤算とは、まさにこのことだ。
「それじぁあ、俺達は戻るとするよ」
シーラの父は数名の部下を伴って、エルフの里を出立するところだった。
「夜の森は危険でやんす。用心するでやんすよ」
「ああ……礼を言う。何から何まで」
戦いで多くの部下と物資を失った男に、オーサは食料や水などを分け与えていた。
「本当にすまない。襲撃者である我々にここまでしてくれるとは」
「感謝するなら『清き異国の雄』にするでやんすよ。あっしらは彼に従ったまででやんす」
そうなのだ。
何を隠そうこれは俺の指示なのだ。
もっと言うなら、アデライト先生の入れ知恵である。心をもって心を掴むことが、協力者を増やす一番の近道とのことだ。
「少年よ。本当に感謝する。これでやっと、娘を救うことができる」
「ああ。俺も嬉しいよ」
これでサラとウィッキーの仲直りに一歩近づけるというものだ。
「キミは……人格のある男だな。他人、いや、敵のためにそこまで心をつくせるとは」
「べつに。利害が一致したってだけだ。気にすることはねーよ」
「ありがとう」
男は恭しく一礼する。
「俺はフェザールという。少年、キミの名を聞かせてくれないか」
「ロートス・アルバレスだ。アインアッカ村のロートス・アルバレス」
直後、フェザールは瞠目した。見るからに驚いている。
「アルバレスだと? そんな、まさか」
「知ってんのか? やっぱ」
顎を押さえ思案するフェザール。
「プロジェクト・アルバレスは十五年も前に破棄されたと聞いている。だが、キミがここにいるということは、機関の中でも極秘に進められていたようだな」
プロジェクト・アルバレスだぁ? なにそれかっこいい。
待てよ。
そのプロジェクト、この人に調べてもらうこともできるんじゃないか。
「フェザールさん。頼みがあるんだけど」
「聞こう。キミには恩がある」
「そのプロジェクト・アルバレスっていうの、調べてくれないか。俺は自分の出生に興味がある」
「だろうな。わかった。できる限り調べてみよう。俺は機関内でそれなりの地位がある。まぁ、今回の失態でどうなるかはわからんが」
「それでもいい。頼むよ」
少しでも出生の秘密を知ることができれば、俺の目立たないスローライフの夢に近づけるかもしれないからな。
今がどれだけ波乱でも、いつか必ず平穏を手にしてやるのだ。
こうしてフェザール達は、里を後にした。
さて。俺達はどうしようか。
「さぁ、ロートス。これから宴でやんすよ。皆が待ってるでやんす」
「宴?」
「そうでやんす。『清き異国の雄』を迎える宴でやんす。今夜は大いに飲み、歌い、踊り明かそうでやんす!」
そうか。そういうのもあるのか。
「よっしゃ。今夜は楽しむぜ!」
帰るのは、明日かなー。




