ハーフエルフって
「まったく……あなたという人は」
アデライト先生が浮かべたのは、安堵というにはあまりにも幸せそうな表情だった。
そこまで喜ぶことか? いや、そこまで喜ぶことなのだろう。
ハーフエルフの迫害の歴史は俺も知っている。スキルを持ちながらも、どの種族よりもひどい扱いを受けてきたのだ。人ではなく物としてしか扱われない。
『千変』のスキルを持つアデライト先生も、いつ自分がその立場になるかとしれない恐怖に苛まれていたに違いない。
俺からすれば、ハーフエルフってめっちゃかっこいいけどな。
「ふむ……アデライト君がハーフエルフか。これは長年冒険者ギルドの長をやってきたワシ的にも驚きの事実じゃわい」
ギルド長が白いひげを弄る。
「まさかとは思いますが……ギルド長、先生を差別するなんてことはないですよね」
俺は一応聞いておいた。意図せず強い口調になってしまったが、しょうがないだろう。
「ほ。正直なところ、ワシとてハーフエルフに対する忌避感がないと言えば嘘になる。幼い頃からそう教え込まれてきた故な」
「おいおい。ギルド長ともあろう人がそんなことでいいのかよ」
噛みついた俺を、アデライト先生が制す。
「ロートスさん、こればかりは仕方のないことです。責めるべきはギルド長ではなく、そういった風習を作った過去の人物たちと、それを変えられない人々の心に巣食う弱さと愚かさです」
「その通りじゃな」
ギルド長も頷く。
「ワシはアデライト君という女性を多少なりとも知っておる。じゃから、ハーフエルフだったからといって邪険にしたりはせぬわい。むしろ、ワシは君がハーフエルフ迫害の歴史を変える最初の一人となることを期待しておるぞ」
「光栄です、ギルド長」
「じゃが、今はまだ時期尚早。しばらくは今まで通り、ハーフエルフであることは隠しておいた方が良いじゃろう」
「はい。私もそのつもりです。正体を明かしたのは、ここにいらっしゃるのが信用できる方々ばかりだからです」
アデライト先生は穏やかに笑い、再び耳を人間の形に戻した。
「と、いうことじゃ。君も口外は無用じゃぞ、セレン・オーリス」
ギルド長が口を閉ざしたままのセレンに喋りかける。彼女は相変わらずの無表情で、アデライト先生をじっと見つめていた。
「よいな?」
「はい」
「ありがとう、セレンちゃん」
セレンの奴が何を考えているかはわからない。こいつだってハーフエルフに否定的な教育を施されてきただろう。アデライト先生に対して悪い感情を抱いていなければいいんだが。
「この話はもう終わりでいいか。エリクサーの件について、話を詰めていかなければな」
フィードリットが張りのある声で話題を切り替える。
そうだ。エリクサーを手に入れることが、今の俺のやるべきことなのだから。




