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ギルドの名誉に誓って

 俺はフィードリットに詰め寄った。


「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「な、なんだいきなり」


 俺の行動に周りの注目が集まっているような気がするが、この際仕方ない。目立たないことより大切なことだってあるだろう。


 フィードリットはのけぞって顔を引き攣らせている。ちょっと近寄りすぎたか。


「エルフの里に、心を治す秘薬があると聞いたんだけど、本当か?」


「心を治す……? エリクサーのことを言っているのか?」


「エリクサー?」


 またベタな名前の薬だな。


「ああ。エリクサーなら、心どころかいかなる病もたちどころに治せる。心だけを治す薬など聞いたこともないから、おそらくお前が言っているのはエリクサーのことだろうな」


「それ、持ってたりしないよな?」


「バカ者。エリクサーは門外不出の秘中の秘。存在そのものは広く知られているとはいえ、持ち出すことは固く禁じられている」


「だよなぁ……」


 やっぱ、そんな簡単には行かないか。

 しかし、だからといってすんなり諦めるわけにもいかない。


「ギルド長、ものは相談なんですが」


「ほ。なんじゃ?」


「勲章もA級もいりません。代わりに、エリクサーを手に入れられませんか?」


「それはなんとも、無茶な提案じゃな……理由を聞かせてもらえんか?」


 俺はサラの肩を抱き寄せてから、頭にぽんと手を置いた。


「俺の従者の恩人が、心の病になってるんです。それをどうにかして治したい。エリクサー以外に、他に方法はないみたいで」


「ほう? それはまた殊勝な理由じゃな。心の病か……スキルによるものかな?」


 鋭いな。さすが冒険者ギルドの長を務めるだけのことはある。俺は首肯で答えた。


「なるほど……」


 ギルド長は長い髭を撫でながら、フィードリットに視線を移す。


「可能性があるとすれば、おぬしだけじゃな。何とかならんか、フィードリット」


「なんとかって……そもそも何故ワタシがそんなことをしなければならんのだ」


「エリクサーが手に入れば、おぬしの望み通り、ロートスの勲章もA級冒険者の昇格も取り消そう。さらには、エリクサーを手に入れた暁にはおぬしをS級に認定するぞ? どうじゃ? やってみんか?」


「S級……その話、本当か?」


 お、フィードリットの心が揺らいでいるぞ。


 そりゃそうか、S級になれるチャンスなんか、人生に一度あるかないかだ。長命なエルフといえど、千載一遇の好機であることに変わりはない。


「ギルドの名誉に誓って、マジじゃ」


「マジなのか……」


 細い顎を押さえて目を閉じるフィードリット。これは脈ありか?


「まぁ、十中八九無理だとは思うが、物は試しだ。このワタシが協力しよう」


 やったぜ。


「その代わり! ちゃんと約束は守ってもらうぞ。ギルド長、ここにいる冒険者や職員全員が証人だ」


「ほっほ。わかっておるとも」


 なんとまぁ。

 都合のいい展開もあったものだ。


 しかし、これで光明が見えたぞ。サラとウィッキーの仲直りも夢じゃない。


「ご主人様……」


 サラが感無量といった表情で見上げてくる。

 俺はぽんぽんと頭を叩き、微笑むしかない。


「何も言うなサラ。俺に全部任せとけ」


「……はいっ」


 正直これに関しては、少しくらい目立ってでも成し遂げたいことだからな。

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