最大の理由
「ひとまず、この件に関しては保留としましょう。ウィッキーとサラちゃんが仲直りできれば一番いいのですが、今のところエルフの秘薬を手に入れるのは現実的ではありません。私の方でも他の方法を調べてみますので、エルフのことはいったん忘れましょう?」
アデライト先生がこころもち早口でそう言った。
なんとなく、先生がこの話を続けたくないのだということは察した。なにか事情があるのかもしれないし、単純にもう遅いからかもしれない。
俺としても、早く帰って寝ることに吝かではなかった。明日も早いからな。
「じゃあ俺は、そろそろ帰ります。また明日学校で」
「はい」
「気をつけて帰るっすよー」
女性二人に見送られながら部屋を後にしようとしたところで、俺はやはり釘を刺しておくことにした。
「ウィッキー」
「ん。なんすか?」
「一人でエルフの里に行くつもりなら、やめとけ」
ぎくりという音が聞こえてくるかとおもうほど、ウィッキーの肩が上下した。
「別に、誰もそんなこと考えてないっすー」
「うそつけ」
完全に図星じゃねぇか。
「いいかウィッキー。勝手な行動はするな。お前に何かあったら悲しむのはサラだぞ」
「……あの子はウチが死んでもなんとも思わないっすよ。むしろ、死んでほしいと思ってるかもしれないっす」
「ざけんな」
サラがそんな風に思うわけがない。
嫌われてるのは事実だが、それは流石に卑屈にもほどがあるぜ。
「あいつはまだ子供だ。感情を抑えきれないこともあるだろう。お前にひどいことを言っていたが、だからといってそれが全てってわけじゃない。お前だってわかってるはずだ。実の姉なんだろ?」
俯いたウィッキーは、何も喋ろうとはしない。だが、それが肯定の証だった。
「危険なことはするな。何かやるなら俺に言え。わかったな?」
返事はない。
沈黙がその場を支配する。
「ロートスは」
しばらくの間を空けて、ウィッキーが控えめに口を開いた。
「どうしてそこまで、ウチのことを気にかけてくれるんすか? ウチは、あんたを殺そうとしたのに」
「決まってる」
俺はウィッキーの首の下あたりを指さして、気持ちのいい笑みを浮かべた。
「お前のおっぱいが大きいからさ」
そして俺は、颯爽と部屋を出ていったのだ。




